ダフ屋肯定論

 「ダフ屋肯定論」は「チケット転売肯定論」と内容が重複してきましたので、そちらをご覧ください。古い文章もいちおう残しておきますが、これは過去の主張であり、今の私の主張とは必ずしも一致しない個所もあるかもしれません。



最終改訂:2005/07/22
(表記等修正:2012/8/29)

 まず論じる前に断っておきます。本文を書くに当たって参考となるサイトを探したところ、多くの方がすでに同じような文章を発表されていました。しかし、私個人の意見として以下にダフ屋について述べていきたいと思いますので、内容が重複することをお許しください。

 ダフ屋はなぜいけないのか?多くの方があげる理由は大きく3つに分かれます。

 1.法律で禁止されているからいけないという法律論。
 2.売買によるお金の流れがよろしくないといういわば経済論。
 3.アーティストに対する裏切りだからとか、ファンならそういうことはしないとかいうような感情論。

 なので、これらそれぞれについて考察してみたいと思います。

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1.法律論

 ダフ屋がなぜいけないのかという理由で、おそらく一番多く、かつもっともだと思われるものは違法だからということでしょう。しかし、法律が必ずしも正しいとは限りません。法律が誤っていれば無効となり、そこで禁じられていた行為は合法となるのです。
 さて、ダフ屋が違法だという根拠条文を探してみると、東京都の場合「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というものが存在します。他道府県でもおおむね同じ内容の条例があると思いますので、ここでは都条例に限って考察します。さて、肝心の条文は下記の通りです。

(目的)
第一条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持することを目的とする。

(乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止)
第二条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、または不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。
2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。



 まず、この法律の目的は都民生活の平穏を保持することです。つまり、ダフ屋行為は都民の平穏な生活を脅かすから違法なのです。

 では、ダフ屋行為とはいったい何なのでしょうか。条文によれば、乗車券等(つまりチケット)を「不特定の者に転売し、または不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため」に、公共の場所において「買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうと」すること、また「転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうと」することなのです。これらをひとつずつ見てみましょう。

 2条1項は、まず行為の目的を「転売もしくは転売しようとする人に交付するため」と規定しています。したがってこれ以外の目的なら合法です。なので、最初は行こうと思ったけど、やっぱり気が変わったので売り捌くのは合法なのです。違法となるのは転売目的でチケットを購入した場合です。しかし、転売目的で買ったのかどうかなんて誰が証明できるのでしょうか?ニュースを見ていると、極端に大量に買った場合などは転売目的と見なされてダフ屋行為として違法になるようですが、そんな判断基準なら団体で行く人はどうするんでしょうか。日本シリーズに会社のみんなで行こうとして200枚チケットを買ったら逮捕されるかもしれません。もちろんそんなことはないんですが、何枚買おうがそれが転売目的であることを立証できない限り逮捕されることはないと思います。

 さて、ダフ屋といえば会場の前でチケットを売買しているのが通常です。先の条文の後半に「うろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おう」としてもいけないとあるため、この行為自体が違法になります。ここでダフ屋のほとんどがやっている「チケット余れば買うよ〜、ない人あるよ〜」というセリフを吐いたとたんに逮捕されることになります。もちろんその本人が入場するためにやっているなら合法ですが、そんなことはめったにありません。だいたいそれなら1枚買えばいいはずですしね。

 次に2項ですが、転売目的で得たチケットを会場前でうろついて売ってはいけないということを規定しています。こうなるとほぼアウトです。これをしてないダフ屋はいません。現在ダフ屋が違法であるといわれるのは、このためなのです。

 ただし、条文の規定はここまでです。少し話題がそれますが、よく言われているような「ダフ屋から買った方も違法」なんてことはどこにも書いてありません。なぜならそれは自分が入場するためであり、転売目的ではないからです。したがって、ダフ屋から券を買うことは合法です。どんどんやれとはいいませんが、犯罪だからやめろという指摘は間違っていることをここで主張したいと思います。(※これは私見です。本当に逮捕されそうになったときにこのような主張をすれば絶対に捕まらないという保証はありません。実行して不利益を被ってもいっさい責任は負いませんのでご了承下さい。)

 さて、ダフ屋は結局違法ということになってしまいました。しかしここで考えてみてください。ダフ屋は本当に都民生活の平穏を脅かしているんでしょうか?ダフ屋にいきなり殴られた人という話は聞いたことがありませんし、クソ席を押しつけられて有り金全部取られたなんていう話も聞きません。もちろん中には不心得な者もいて、暴力行為にでるダフ屋もいるかもしれませんが、そういう連中だけをその他各法令で取り締まれば良いことです。ただし、そんなことをすれば別件逮捕の格好の餌食なので、普通はそういうことはしません。通常、客が自分から売るなり買うなりの交渉にかかることがほとんどです。最初はダフ屋が声をかけてくることも多いでしょうが、毅然とした態度で断れば普通はそのまま諦めます。ダフ屋から声をかけられて交渉に入るのであっても、自己の判断のもとに取引しているはずです。どこにも生活を脅かす要素などありません。ダフ屋は都民生活の平穏など脅かしていないのです。となれば、この条例自体がおかしいと解することもできます。

 これだけ書いていると、まるで私がダフ屋の味方のように思われるかもしれませんが、暴力行為をするダフ屋を許すつもりはありません。以下で各行為につき適用される条文を提示します。下記の行為にあった場合はすみやかに警察まで被害届などを提出してください。警察としてもダフ屋は逮捕したいですから、あなたがダフ屋の顔や名前を覚えていれば喜んで捕まえに行ってくれます。なお、各条文は刑法のものです。
● 殴られた、蹴られた等の暴行を受けた
 第204条   【 傷害 】
  人の身体を傷害した者は、十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
● チケットを脅し取られた
 第236条   【 強盗 】
  暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
 第249条   【 恐喝 】
  人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
● 違う日や席のチケットをつかまされた
 第246条   【 詐欺 】
  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
 なお、ダフ屋に損害賠償を求めたい等は民事事件ですので、警察は取り合ってくれません。有名な原則ですが、警察は民事不介入です。警察にかけこんでどうにかなるのはあくまで刑罰の対象になる行為のみですので、気をつけてください。

 冷静に考えてみると、チケットを定価以外で売ったり買ったりする行為自体は違法ではありません。あとでも触れますが、金券ショップが同じ事をやっているからです。その二者の違いは許可を受けているかいないかということで、ダフ屋は許可を受けていないだけなのです。
 思うに、この条例で取り締まりたいのは暴力団です。そしてダフ屋は通常暴力団と関わりがあります。なので、警察の言い分はダフ屋は直接は都民生活を脅かしていないが、暴力団は都民生活を脅かすから条例違反である。したがって暴力団であるダフ屋はこの条例で取り締まれるという三段論法なのだと推測されます。しかし、それなら条例の目的に「暴力団を取り締まるため」というようなことを明記してもらいたいものです。そんな拡大解釈をされてはたまりません。誰か逮捕されたダフ屋が条例の無効を申し立ててくれないものでしょうか。

 結論として、ダフ屋は現行法では違法だが、その根拠となる条例の正当性に疑問があるということがいえるでしょう。

 なお、「合法」というのは「違法ではない」という意味であり、「正しいこと」という意味ではないことをお断りしておきます。


2.経済論

 ダフ屋はチケットの売り上げをどうしているのでしょうか。ダフ屋=悪であるという説の理由で「違法だから」以外に良く言われていうるのは、暴力団の資金源になるからダフ屋から券を買ってはいけないというものです。ちょっと待ってください。じゃあどうして暴力団自体を取り締まらないのでしょうか。親玉である暴力団をつぶせば、現在のようなダフ屋はいなくなります。これは警察が暴力団自体に直接手を下せないために暴力団を兵糧攻めにしているのを正当化する意見だと思います。これを妙策だと評価することも出来るでしょうが、私は警察の手抜きだと批判したいと思います。
 そうしたら暴力団じゃないダフ屋が出てくるって?でも、それは暴力団の資金源になってないからこの理屈の上ではなんら問題ありません。

 また、これはこの文章を書くにあたっていろいろ検索していたら見つけた意見なのですが、Tax Fighters Forumの「水木の目」第38回でダフ屋は税金を払っていないから問題であると述べられています。これは全くその通りであると思います。これを裏付けるものとして、同じ事をやっている金券ショップは合法であるという事実があります。同じようにチケットを定価以上(時には定価以下)で販売していながら、届けをして許可をもらい税金を払っている金券ショップは合法、それらを怠っているダフ屋は違法なのです。でも、それならダフ屋を金券ショップ扱いにして公的に許可すれば何ら問題ないということになります。ぜひこの制度を導入していただきたいと思います。

 また、「ダフ屋が買い占めるから本当に欲しい人が買えなくなる」という意見があります。これは当たっているようでそうでもありません。 ダフ屋が買わなくても、たぶんあなた以外の誰かが買うでしょう。ダフ屋がたかだか数百枚買い占めただけでチケットが足りなくなるような公演ならば、最初からチケットは足りないのです。もしもダフ屋が買いすぎたせいでチケットが完売し、そのためだけに欲しい人が買えなくなったという状況を考えてみてください。つまり、ダフ屋がいなければ欲しい人が全員買えたという場合です。その場合、(ダフ屋の持っている券の数≧チケットが買えなかった人の数)ということになります。もしこのような場合、ダフ屋は定価以上で売ることが出来ず、せっかく定価で買ったチケットを赤字で放出することになり割が合いません。なぜならチケットが不足して客が値段をつり上げあうという状況が起こり得ないからです。こんなことは聞いたことがありません。そもそもこの意見はダフ屋の持っているチケットが全て定価以上で取り引きされるという前提の上に成り立っていますが、現実には必ずしもそうではありません。
 多くの場合、ダフ屋が前売りで買ったチケットは定価以上で売買されます。つまり、買えば確実に売れる券、不足することがわかりきっている券なのです。このような券は、資本主義の原理でいけば取るために努力した者がとれて当たり前です。とれなかった者は努力が足りなかった、ただそれだけのことなのです。

 これ以外にも、「ダフ屋は定価以上でチケットを売ってぼろ儲けをしているからいけない」という意見がありますが、論外です。そのチケットに定価以上の価値があれば、値段が上がるのは当然で、これは市場原理です。こちらのサイトでTsutsuiさんも同じ意見を述べられています。そういう主張をする人は6千円でチケットを買って10万円で売るのは怒るくせに、ただの石ころである宝石やブランド物にとんでもない値段が付いているのはおかしいと思わないんでしょうか。どうして定価の付け方がおかしいと思わないんでしょうかね。

 結局、ダフ屋が税金を払わないのは問題があるが、それ以外には別に悪いことはしていないと思われます。

3.感情論

 この部類の話になると議論するようなこともあまりないのですが、一応ひとつずつ潰していきたいと思います。

 まず、「アーティストに対する裏切り」だという意見。何が裏切りなんでしょうか。いつアーティストがあなたにチケットをかならず定価で買えと言ったんでしょうか。電話がつながらなかったら、FCの抽選で外れたら絶対諦めなきゃならないのでしょうか。心優しいファンが余ったチケットを定価で売ってくれるかもしれませんが、値段が跳ね上がったチケットを定価で売ってくれる人などそうはいません。どうしても観たければ、金を積んでチケットを入手するしか現実的には方法はありません。それも許さないというんですか?そんなバカな話はありません。だったらアーティストに希望者は全員入れるような会場でやってくれと言ってください。

 また、「アーティストが悲しむ」という意見。上と同じようなことかもしれませんが、別に悲しまないと思うんですが。先ほどのサイトのTsutsuiさんとまたも同意見で恐縮ですが、どこにも困る要素がありません。

 アーティスト→空席が減って嬉しい。
 ダフ屋に券を売った客→紙くずにするよりは少しでもお金になれば嬉しい。
 ダフ屋から券を買った客→コンサートが見れて嬉しい。
 ダフ屋→安く買って高く売るから、儲かって嬉しい。

 多くの場合、ダフ屋の券は客から余った券を買い取ったものです。なので、元をたどれば誰かが定価で買っています。ですから、別に主催者も損はしていません。アーティストにもちゃんと正当な金額が入っています。どこにも損をするようなところはありません。売りたい人が直接買いたい人を捜せばダフ屋にマージンを抜かれない分得だという意見もありますが、だったらやってみてください。客を見つけるのがどんなに大変か分かると思います(ただし、あまり派手にやるとダフ屋とみなされて逮捕されるおそれがあります)。その作業を代行してもらうのですから、その分の手数料を払って当然だと思います。これは金券ショップにも言えることです。

 「ファンならそういうことをしてはいけない」というものになると、もうただの信者です。ダフ屋と取引したくないならあなたはしないで下さい。でもそれを人に押しつけるのは余計なお世話です。そんな決まりはただの俺様法律で、他の客が何をしようと勝手だと思います。

 でも百歩譲って、仮にファンがダフ屋と取引するのを禁止しているアーティストがいたとしましょう。そんな約束を守らなくてはならない理由はどこにもないのですが、それを言ってしまうと元も子もないのでそれは置いておきます。それでも、そのアーティストのコンサートの客が、全員ファンだという保証はどこにあるんですか?ちょっと見てみたいだけかもしれません。嫌いだから嫌がらせをしてやろうと思っている人もいるかもしれません。あなたやアーティストがただダフ屋を嫌いだからという理由は、ダフ屋が悪いことだという理由にはなりません。

4.まとめ

 以上で見てきたように、ダフ屋は絶対な悪だということはできません。3で述べたように、むしろ良い面も持っていると言えます。そもそもダフ屋はチケットの定価と相場に開きがあるところに目をつけた頭の良い商売であるのですが、たまたま暴力団が仕切っているために社会の悪のような見方をされているのだと言えます。

 余ったチケットをなんとか売りたい、一般発売でチケットを入手できなかったがなんとしてもコンサートに行きたい、お金はいくらかかってもいいから前で観たいといった市場のニーズに応えているダフ屋は現時点では必要なものだと思います。その意味で私はダフ屋を肯定します。

 現行法ではダフ屋は違法ですが、私は必要悪だと考えています。チケットの正規販売が相場にのっとって行われるようになれば、自然とこの手の商売は消えていくでしょう。ダフ屋をなくしたいというのであれば、対症療法的にちまちま取り締まるのではなく、チケット販売のシステムを根本的に見直す必要があると思います。

 ※ ネットオークションなどの出現により、ダフ屋を通さずにチケットの処分ができるようになっています。またネットを使ったダフ屋も出現しています。これらの現象については今回は取り上げていません。
 ※ また、私はダフ屋ではありませんので勘違いしないでください。

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